ポーランド日記

ワルシャワに来ました。

学生について①

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私はよく、疲れると皮膚に表れる。去年もそうだったけど、疲れがたまると、二の腕とか太ももの内側に蕁麻疹とまではいかないけれど、赤いぼつぼつができて、少しかゆい。去年も一昨年も、夏にわきの下とかにそんな赤いぼつぼつができて、ほっといても治らないから仕方なく皮膚科に行ったのだった。もちろん、汗疹のようなかわいいものではなくて、疲労とかストレスからくるぼつぼつで、ビタミン剤とか抗生剤なんかの薬を渡されて、あまり疲れないように、ストレスを溜めないように、なんて日本社会では無理ゲーなことを医者に言われて、はぁ、頑張ります、なんてことを言って診察室を後にした。

それが、今年もやっぱり現れた。

今はストレスなんて、日本で働いていたころの5分の1以下だけど、やっぱり疲れると現れるらしい。内腿の広範囲に赤い斑模様が現れた。汗をかくと、身体がチクリとする。

不便なものだなぁと考える。身体は本当に、不便だ。

この前、オンラインで教えている学生に初めて会った。彼女は郊外に住んでいて、ワルシャワで働いているが、通学が難しいのでオンラインでの授業を受けている。高校生の時から日本語を勉強し、日本人の彼氏がいたこともある。日本語がとても上手で、会話にはほとんど不自由しないが、日本で働きたい、日本に住んでみたいという希望のために日本語を勉強し続けている。

髪が長くて、ふくよかで、とても美しい女性だ。女性と言っても、私より7つ年下の女の子だけど、彼女は本当にしっかりしていて、人格ができている。私のアパート探しを手伝ってくれたのも彼女だ。

そんな彼女が、実は「ハシモト病」で、痩せられない体質なのだ、ということを話してくれた。ハシモト病。私は知らなかったが、ハシモト博士が発見した、甲状腺の病気。ホルモンバランスのせいで、痩せにくく、小麦粉が食べられなくて、激しい運動もできない。彼女はもともと泳ぐことや運動が好きで、一時期ポールを自宅に所望するほどポールダンスに打ち込んでいたらしい。しかし今の彼女に、昔日のように激しい運動をすることはもはや許されない。きつい運動が好きで、ランナーズハイが堪らないと話してくれたけど、私はランナーズハイを愛せるほど運動が好きではない。

身体は、本当に不便だ。こんなに運動が好きな女の子の代わりに私がその病気になればよかったな、と思う。もちろん誰かに病気を分けてあげることはできない。私の母も甲状腺の病気を持っているし、私も将来そうなるかもしれない。

私は、そんなに運動が好きだった彼女が、こうこうこういうわけで今は運動ができない、と淡々と語ったことに何だか感動してしまった。愚痴るでもなく悲しむでもなく、同情に訴えるでもなく、淡々と事実を話す彼女を前にすると、それはほんの大したことのない出来事に聞こえてしまいそうだが、実際そんなはずはないのだ。できるはずだったことができないこと、大丈夫だったことが大丈夫ではないこと、これはものすごくストレスだと思う。そんな話を聞きながら、それよりも、勉強したい、自分のしたいことをやりたい、と話してくれた時のほうがよっぽど感情が強くて、ちょっと泣きそうで、この人はかっこいいなぁと思った。誰かを尊敬するのに年齢は関係ないと思うけど、私は彼女を尊敬せずにはおれない。

身体が自分の思い通りにならないのは、本当にイライラする。それは、若い時や昔に、健康に胡坐をかいて何も考えずに意志だけで行動していた人間への報いのイライラだ。身体のことになんか構っていられない、そう思っていたけれど、でも本当は、そうはいかない。自分の身体にもっとちゃんと向き合わなくてはならない、と真剣に考える。何かをなくしたら、そこからまた始めなくてはいけないし、手元にあるカードで戦う以外の選択肢はない。わかっているつもりでも、わかっていないことが多くて、忘れていることが多くて嫌になる。

そして私はこの夏、皮膚科なしでこのぶつぶつを乗り切らなくてはならない。疲れないように、ストレスを溜めないように。