ポーランド日記

ワルシャワに来ました。

学生について③

ワルシャワには規模の差はあれど、20前後の日本語教育機関があるらしい。私のようにぷらっと来ても、あるいは日本人であれば、イベントやインターネットなんかを通して日本語を学習する人に出会えるし、チャンスがあれば日本語を教えることを仕事にできる。具体的な数字もなしに断ずることはできないけれど、日本語を勉強している人は、案外いる。実に様々な理由で、あるいはとくに理由もなく、様々な人が日本語を勉強しているのでいつも驚く。

日本にはいったい、どれくらいのポーランド語学習者がいるのだろう。 

この前ふと気になって、客室乗務員の学生に、いつも長距離フライトの時は、寝られるの?と尋ねた。仮眠をとる人と、待機する人がいます。待機しているあいだ、みなさん何をしていますか。携帯電話でゲームをしたり、本を読んだりします。客室乗務員さんでも携帯電話でゲームをするんですね、と思わず偏見交じりの驚きを隠せずに口に出す。では、あなたは何をしていますか。本を読んだり、論文について考えたり(彼女は働きながら修士課程を取っている)…自分の小説の続きを考えたりします。

彼女はシャイで謙虚なハイスぺ女子であるが、論文のほかに小説も執筆中とは知らなかった。もう自分のあまりの創造性のなさに絶望するしかない。客室乗務員になるのは、難しいことらしい。なんとなくわかってはいるけど、他の学生に話したときにそう言われたので成程、客室乗務員になるのはやはり難しい事なのかと思ったのだが、彼女は、大学院を終えたら別の仕事がしたいから、とっとと転職活動をすると言う。この仕事は楽しいけれど体のことを考えたら長く続けることはできない、と。しれっと有能な人は、本当にいつでもしれっとすごいことを重ねて、ずっと遠いところに行ってしまうのだな、と思う。

 最近教えている学生は、ポーランドの外務省に勤めていて東アジアを担当している。仕事前の授業にずいぶんラフな格好で現れたのであっけにとられて、その格好で仕事に行くんですか、と尋ねる。いいえ、事務所で着替えます。そらそうですよね、外務省ですもんね、さすがにパーカーとジーンズではね、と言いつつも、勉強のために出勤時間を遅らせることができる社会の柔軟さがうらやましい。彼は日本語も上手だが、もともと韓国に留学していて朝鮮語が堪能だ。ポーランドは北朝鮮とも国交があるので、彼の目下の悩みは我々と同じかの国らしい。彼の職場では、音楽を聞きながら仕事をしていて、最近は事務所でサルサが流れているらしい。日本の公務員に、サルサを聞きながら働いている人はいるのだろうか。そんなことが日本で可能になるのはいつなのだろうか。

大学で脳について研究している学生、建設現場で指揮を執る学生、自分の英会話学校を経営しながらDJをする学生、国外の研究所で生物学を研究する学生、自分の仕事はつまらないという普通のOLの学生、国立図書館の職員。

私は恐れながら、遠く極東の風変わりな言語を勉強しているような学生は、たぶんおおかたアニメ好きのオタクであろうなどと浅はかに考えていた自分の右頬を、全力でグーパンしたい。本当にいろいろな人が、日本語を勉強している。どこよりも、日本が好きという学生もいる。

 おもしろいのは、この仕事をして、ここにいて、会うことのなかったような学生さんたちに会えること。